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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)2473号 判決 1984年3月16日

裁判所書記官

安井博

本店所在地

東京都千代田区神田司町二丁目一七番四号

株式会社オンワード縫製川越工場

右代表者代表取締役

土屋彰

本籍

埼玉県所沢市榎町一七三八番地の二六〇

住居

埼玉県所沢市榎町四番七号

会社役員

土屋彰

昭和七年三月二九日生

右両名に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官三谷紘出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一、被告人株式会社オンワード縫製川越工場を罰金二五〇〇万円に、被告人土屋彰を懲役一年二月に、それぞれ処する。

二、被告人土屋彰に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社オンワード縫製川越工場(以下「被告会社」という。)は、東京都千代田区神田司町二丁目一七番四号に本店を置き、紳士服の縫製等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人土屋彰(以下単に「被告人」という。)は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五四年八月一日から同五五年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三四七二万八二三〇円あった(別紙1の1修正損益計算書参照)にかかわらず、同五五年九月三〇日東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において同税務署長に対し、その所得金額が七六九五万〇七九五円でこれに対する法人税額が二八一六万七一〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(昭和五八年押第一五七六号の3)を提出しそのまま法定の納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五一二五万四九〇〇円と右申告税額との差額二三〇八万七八〇〇円(別紙2の1税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五五年八月一日から同五六年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四五九八万五三七四円あった(別紙1の2修正損益計算書参照)にかかわらず、同五六年九月三〇日、前記神田税務署において同税務署長に対し、その所得金額が八四〇七万八三一五円でこれに対する法人税額が三二二三万五六〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の4)を提出しそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五八二一万二三〇〇円と右申告税額との差額二五九七万六七〇〇円(別紙2の2税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五六年八月一日から同五七年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億一八〇九万七二〇六円あった(別紙1の3修正損益計算書参照)にかかわらず、同五七年九月三〇日、前記神田税務署において同税務署長に対し、その所得金額が一億〇九六三万九七二二円でこれに対する法人税額が四三三九万九〇〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の6)を提出しそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八八九二万九六〇〇円と右申告税額との差額四五五三万〇六〇〇円(別紙2の2税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷(第四、五回期日)における供述並びに検察官に対する供述調書六通

一、土屋乃婦子(五通)、前田圭一(二通)、阿部弘喜(三通)、菅原安勝(五通)、根岸雄治(三通)、大島敬(三通)の検察官に対する各供述調書

一、登記官作成の商業登記簿謄本(閉鎖役員欄を含む)

判示各申告書提出の事実並びに判示各修正損益計算書及び税額計算書中の公表金額、申告額の内容につき

一、法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第一五七六号の3、4、6)

判示各修正損益計算書中の当期増減金額の内容につき、

一  大蔵事務官作成の次の各調査書

1  純売上高調査書

2  期首材料棚卸高調査書

3  当期材料仕入高調査書

4  期末材料棚卸高調査書

5  外注費調査書

6  工員賞与調査書

7  雑給調査書

8  給与等負担金調査書

9  水道光熱費調査書

10  消耗品費調査書

11  修繕費調査書

12  消耗工器具備品費調査書

13  賞与調査書

14  受取利息調査書

15  雑収入調査書

16  価格変動準備金繰戻益調査書

17  特別償却準備金繰戻益調査書

18  価格変動準備金繰入額調査書

19  特別償却準備金繰入額調査書

20  事業税認定損調査書

一、神田税務署長作成の証明書

(争点に対する判断)

弁護人は、被告会社の夏期賞与(工員賞与、雑給及び賞与の各勘定科目にまたがる。)は、各従業員に対する月額給与の二・五か月分を基準に、毎年一月から七月までの被告会社の業績、従業員各人の勤怠状況を勘案して七月三一日の事業年度終了時までに各従業員別の査定を経て支給額を決定し、夏期休暇の始まる前日の八月八日又は九日に支給していたのであるから、被告会社が右夏期賞与をその支給債務の確定する日の属する前事業年度の損金に計上したのは正当であり右部分(本件三事業年度合計一一七九万三一五八円)については逋脱に当らない。また、仮に右が債務として確定していないとしても、被告会社では夏期賞与の損金算入時期を誤っていたに過ぎないから、右夏期賞与の前事業年度損金計上に当り偽りその他不正の行為により法人税を免れる故意がなかったものであると主張する。

そこで被告会社の夏期賞与支給に至るまでの経過を前掲関係証拠、特に大蔵事務官作成の工員賞与調査書、雑給調査書、賞与調査書並びに大島敬(昭和五八年九月二七日付、六枚のもの)、菅原安勝(同年九月二八日付)、土屋乃婦子(同月二七日付)、被告人(同月二五日付)の検察官に対する各供述調書に即して検討してみると、被告会社では毎年六月ころからその年の各従業員ごとの勤怠状況を査定すべく各班長により所属班員の勤怠状況に関する査定が行われ、これを持ち寄ってライン長の集まりで調整してここに一応の査定を終え、これに基き経理担当者において基準額に比照して各従業員ごとの賞与額案を算出し、社長である被告人のもとに右査定とこれに対する賞与支給額案等を記載した資料が提出され、更に被告人が社長としての立場で総合調整して加減を加え夏期賞与支給額を最終的に決定し、一斉夏期休暇の始まる前日である八月八日又は九日に各従業員に支給することとなること、しかしながら各従業員に右賞与額が具体的に告知されるのは、右支給の時点であることの各事実が認められる。

一般にある事業年度の損金として計上すべき費用は、当該事業年度終了の時点までに債務として確定することを要し、またこれをもって足ると解すべきことは弁護人主張のとおりであるとはいえ、右債務の確定とは単に支給すべきことが内部的に明確化したというだけでは足りず、本件のような賞与の債務についてみると、従業員ごとに具体的に金額が算出されてこれが相手方にも明確になり、その支給内容が確定した段階をいうべきである。そこで被告会社の右の経過をたどって支給される夏期賞与について債務の確定時点を検討すると、右にみたように事業年度終了の七月三一日の時点では被告会社の内部手続としてほぼ支給額が明確化していたと認められるとしても、まだ各従業員に対しては支給金額が告知されることなく、社長たる被告人の判断により支給額の変更を随意になしうる余地のある段階であったといわざるをえないのであるから、右の時点においては被告会社の債務として確定したものとはいえず、これが各従業員に告知される賞与支給日の八月八日又は九日に至って始めて被告会社の債務として確定したものと認められるのであって、被告会社が前事業年度終了の時点で右夏期賞与を損金として計上することはゆるされないというべきである。

次に、前掲関係証拠によれば、被告会社では昭和五四年七月期の事業年度の決算に当り、当該期の利益が大幅に増大したところから、右事業年度の利益を調整し被告会社の所得を過少に隠ぺいして法人税を免れるため、夏期賞与(八月支給)、決算賞与(一〇月支給)、下期賞与(一二月支給)及び時宜に応じて支給する努力賞等の臨時的賞与の見積額を賞与引当金勘定によることなく、決算において一括損金として計上し、その後も同様の意図、目的から右の賞与見積額を各決算期に一括損金に計上してきたものであって、その後現実に各従業員に支給された賞与額も右計上額とは必ずしも一致しない状況が認められるのである。被告会社において賞与見積額を前事業年度において一括損金計上するに至った右の経緯に鑑みれば、右一括計上された賞与見積額の一部である夏期賞与についても、単なる損金計上時期の誤りというにとどまらず、被告会社の所得を過少に隠ぺいしこれに対する法人税を免れる意図、すなわち逋脱の故意のあったことが明らかに認められるところである。

以上のとおりであって、右夏期賞与については、前事業年度の債務として確定していたものではなく、従ってこれを前事業年度の損金として計上することはゆるされないものであり、また、右損金計上について逋脱の故意も認められるから、弁護人の右主張は理由がない。

(法令の適用)

被告会社の判示第一の所為は昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条、一六四条一項に、被告人の判示第一の所為は行為時において右改正前の法人税法一五九条に、裁判時において右改正後の法人税法一五九条に、被告人の判示第二、第三の各所為はいずれも右改正後の法人税法一五九条(被告会社については更に一六四条一項)にそれぞれ該当するところ、被告人の判示第一の罪は犯罪後の法令により刑の変更があった場合であるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人の判示各罪につきいずれも懲役刑を選択し、被告会社及び被告人の以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから被告会社については同法四八条二項により判示第一ないし第三の各罪につき定めた罰金額を合算した金額の範囲内で、被告人については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告会社及び被告人を主文第一項記載のとおりの各刑に処し、被告人については情状により刑法二五条一項を適用し主文第二項記載のとおりその刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、昭和二四年山梨県の工業高校を卒業後洋服付属材料卸や洋服縫製の業務に従事した後、昭和四三年九月大手既製服業者である樫山株式会社の専属下請業者として被告会社を設立し、以来被告会社の代表取締役社長として縫製作業の機械化、効率化に努力し、縫製業界に流れ作業方式を大幅に導入し同業他社より高い利益率を上げるようになった被告人が被告会社の利益を実際通り申告することにより、利益率の低い同業他社の妬みを買い仕事がしにくくなることをおそれるとともに、不況時における人件費の確保等不測の事態に備えるべく、被告会社の内部蓄積を図りたい等の動機から、申告利益率を売上高の八パーセント前後に押えるよう利益調整をなし所得を過少に隠ぺいし法人税を免れようと考え、被告人が実質的経営者であるのに名目上は被告会社の従業員を代表取締役に据えて発足し、被告会社とは決算期が半年ずれている縫製業株式会社共進縫製を利用し、右会社に対する架空外注費を計上したり、被告会社の賞与見積額を繰上げ、水増計上したり、簿外無記名定期預金の利息収入を除外したり、製品材料の期末棚卸の一部を除外する等の経理操作を経理責任者である妻乃婦子をして行わせ、更に右経理操作によって株式会社共進縫製に生じる利益については、全く架空の佐藤縫製株式会社なる会社に外注したことにして株式会社共進縫製から外注費を計上する等の種々巧妙な経理操作を次々に行いその所得秘匿工作をした上、判示のとおり起訴対象三事業年度で合計九四五九万五一〇〇円の法人税を免れたものであり、その逋脱税額の正当税額に対する割合、即ち逋脱税率は四五パーセントないし五一パーセントに達しているのであって、本件逋脱事犯における被告人らの刑事責任には重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、右の逋脱形態をとっているところから明らかなとおり、被告会社の免れた法人税額のうちには、実質的には株式会社共進縫製名義で申告納付していた部分も含まれていること、被告人は捜査及び公判の当初においては公訴事実を否認していたがその後は事実を認めて本件について反省を深めており、判示事業年度を含む四事業年度の被告会社の法人税本税、延滞税及び関連地方税を既に全額納付したほか本件脱税の手段に利用した株式会社共進縫製についても昭和五五年一月期事業年度については修正申告をなし、その後の三事業年度の過納分については更正の請求をなし、更に被告会社に対して営業譲渡を行って再び右会社が脱税の温床にならないよう経理体制を整備改善すべく努めていること等、被告人らに有利に斟酌すべき事情も認められるところである。

そこで、以上のほか、被告人の経歴、家庭の状況等本件審理に顕れた一切の事情をも総合勘案し、主文のとおり量刑した次第である。

(求刑 被告人につき懲役一年二月、被告会社につき罰金三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 池田真一 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙1の1

修正損益計算書

株式会社オンワード縫製川越工場

自 昭和54年8月1日

至 昭和55年7月31日

<省略>

別紙1の2

修正損益計算書

株式会社オンワード縫製川越工場

自 昭和55年8月1日

至 昭和56年7月31日

<省略>

別紙1の3

修正損益計算書

株式会社オンワード縫製川越工場

自 昭和56年8月1日

至 昭和57年7月31日

<省略>

別紙2の1

税額計算書

<省略>

別紙2の2

税額計算書

<省略>

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